「“全体最適”ができるデザイナーとは?」 ─ パーツからシステムへ思考を進化させる

デザイン
Man holding a digital pictures of business graphs. Business. Technology

はじめに

デザインの現場では、「部分的にきれいに見せる」ことはある程度誰でもできます。しかし、ビジネスやブランドの成果につながるデザインをするには、全体最適の視点が欠かせません。
目の前のボタン一つ、配色一つにこだわることも重要ですが、それが全体の体験の中でどう機能するのかを考えられるかどうか──ここでデザイナーの力量が分かれます。

この記事では、「全体最適ができるデザイナー」とは何かを掘り下げながら、実務にどう応用できるのかを整理していきます。


第1章:なぜ全体最適が求められるのか

部分最適ばかりに囚われると、次のような問題が起きます。

  • 統一感の欠如:パーツごとに美しいが、画面全体ではちぐはぐ。
  • ユーザー体験の分断:操作の流れが途切れ、ストレスがたまる。
  • ブランド毀損:広告は洗練されているのに、プロダクトのUIが雑で信用を落とす。

これらは「一点豪華主義デザイン」の罠とも言えます。
特にデジタルプロダクトでは、ユーザーが行き来する一連のジャーニーをどう滑らかに繋ぐかが成功のカギです。


第2章:パーツ思考からシステム思考へ

全体最適を実現するには、「パーツ思考」から「システム思考」への進化が必要です。

パーツ思考とは?

  • ボタンやバナーなど、単体要素の美しさに注力する。
  • 「この画面だけ良ければOK」という発想。

システム思考とは?

  • 各パーツがどう連動し、ユーザー体験を形成するかを考える。
  • UIコンポーネントやデザインシステムを整え、一貫性と拡張性を重視する。

たとえば「ボタンの角丸」を考える場合も、単体の美しさではなく、フォームやカード、モーダルとの一貫性を踏まえて決めるのがシステム思考です。


第3章:全体最適を実現する3つの視点

では具体的に、どんな視点を持てば全体最適に近づけるのか?僕が現場で意識しているのは次の3つです。

1. ユーザージャーニー視点

ユーザーがどんな経路でサービスを利用するのかを想定し、その流れの中でストレスや違和感を最小化します。

2. ビジネス視点

「売上」「リード獲得」「ブランド認知」など、事業目標にどう寄与するかを常に意識する。

3. デザインシステム視点

個々のパーツが孤立しないよう、スタイルガイドやコンポーネント設計を整備する。


第4章:実務で全体最適を鍛える方法

  • デザインレビューを俯瞰で行う
     自分が作った画面だけでなく、関連画面や導線も含めて確認する。
  • プロトタイピングを積極的に使う
     単画面の美しさより、遷移や動きのつながりを検証する。
  • クロスファンクションでの議論
     エンジニア、マーケター、営業と意見を交わすことで、全体視点が磨かれる。

第5章:“全体最適”デザイナーが重宝される理由

全体最適を考えられるデザイナーは、次のような価値を提供できます。

  • 成果を出せる:単なる見た目の良さではなく、数字に直結するデザインができる。
  • チームを導ける:デザインの一貫性を守り、メンバーの作業を効率化する。
  • ブランドを育てられる:短期的な案件を超えて、長期的な信頼構築に寄与する。

まさに「パーツ職人」から「システム設計者」へ進化することで、デザイナーは組織の中核的存在になります。


第6章:全体最適を阻む3つの落とし穴

デザイナーが「全体最適」を意識しているつもりでも、実務では次のような罠にハマりがちです。

1. 部分成果にとらわれる

  • バナーだけ、UIの一部だけ「キレイ」と褒められると満足してしまう。
  • その結果、サービス全体ではちぐはぐな体験になる。

2. KPIに縛られすぎる

  • 「このページのCV率を上げろ」というミッションが与えられると、短期的な数字だけを追いがち。
  • しかし、無理な強調や派手な訴求はブランド全体の信頼感を削る危険性がある。

3. 自分の担当領域だけ見る

  • 「デザインはデザイン」「開発は開発」と分断してしまう。
  • その結果、本来は一気通貫で考えるべき体験が分断される。

第7章:初心者が陥る「部分最適思考」

特に駆け出しデザイナーに多いのが「部分最適思考」です。

  • フォントだけを延々と調整する
     全体の可読性やUIとの一貫性ではなく、「この見出しをもっとかっこよく」と孤立した改善を繰り返す。
  • 色味の微調整にこだわりすぎる
     ブランド全体でのカラースキームを無視して、「自分が気に入る色」にしてしまう。
  • ワイヤーフレームの流れを無視する
     画面単位で作り込みすぎて、実際の導線で見たらユーザーが迷子になる。

こうした失敗は「デザインが下手」というより、視野が狭くなっていることが原因です。


第8章:部分最適から全体最適へ切り替えるトレーニング

では、どうすれば部分最適思考から脱却できるのか?僕が実務で取り入れている方法を紹介します。

1. 俯瞰チェックをルーティン化する

  • 一画面のデザインを仕上げたら、必ず「前後の画面」とセットで確認する。
  • これにより「このボタンは本当に必要?」という問いが自然に出てくる。

2. デザインシステムを意識する

  • 自分が作ったパーツを「再利用可能か?」と考える癖をつける。
  • コンポーネント化できるものは早めに仕組み化。

3. 他職種と会話する

  • エンジニアと話すと「実装負荷」や「拡張性」を学べる。
  • マーケターと話すと「数字の視点」を吸収できる。
  • これらを統合して判断できるのが、全体最適デザイナーの強みになる。

第9章:事例で見る“全体最適”

例えば、あるECサイトの改善案件で「購入ボタンを大きくしたい」という要望がありました。

  • 部分最適の発想では → 「とにかく目立つ色で巨大にする」。
  • 全体最適の発想では → 「他のCTAとの一貫性」「購入フロー全体での自然さ」を重視する。

結果として、ブランドカラーのバリエーションを活用して適切に強調し、全体の信頼感を損なわずにCVを向上させることができました。


第10章:全体最適を武器にする

全体最適を意識できると、デザインは単なる「装飾」ではなく、ビジネスの推進力になります。

  • 施策のつぎはぎで疲弊していたチームを整流化できる。
  • ブランドが一貫し、ユーザーに「信頼感」が芽生える。
  • 結果的に数字の成果もついてくる。

全体最適ができるデザイナーは、チーム内外で信頼される存在になるのです。


第11章:全体最適を学ぶステップ

いきなり「全体最適を意識しろ」と言われても、具体的に何から始めればいいのか迷いますよね。そこで、僕なりに実践的なステップを整理しました。

ステップ1:部分最適をやりきる

  • まずはボタンや見出しといったパーツをしっかり仕上げる力をつける。
  • 小さな単位で「なぜこのデザインが良いのか」を説明できるようになると、後々の全体設計に役立つ。

ステップ2:ユーザーフローで考える

  • 画面単位ではなく、利用の前後関係を意識する。
  • たとえば「トップ → 商品詳細 → カート → 購入」という流れを紙に書き出して、感情のアップダウンを整理する。

ステップ3:ビジネスゴールと接続する

  • 単なるデザイン改善ではなく、事業全体にどう貢献するかを意識する。
  • そのためには数字を見る力やマーケティングの基礎も必要になる。

第12章:全体最適を武器にするキャリア戦略

デザイナーのキャリアは「部分最適で成果を出す段階」と「全体最適を見渡す段階」の二層構造になっています。

  • ジュニア時代
     → バナーやパーツ制作で部分最適の経験を積む。
  • ミドル期
     → プロジェクト全体の体験を整理し、関係者と調整する力を養う。
  • シニア以降
     → 全体最適の観点から「事業におけるデザインの役割」を定義できる存在になる。

つまり、全体最適を意識できるかどうかが、キャリアの次のステージへのパスポートになるわけです。


第13章:全体最適は“思想”である

全体最適は単なるスキルやノウハウではなく、思想に近いものです。

  • 「一部ではなく全体を見て判断する」
  • 「短期成果より長期の信頼を優先する」
  • 「自分の領域だけでなく他者の領域も尊重する」

こうした考え方は、一度身につけばあらゆる仕事に応用できます。


まとめ

全体最適を意識するデザイナーは、単なる「つくる人」から「チームを前に進める人」へ進化できます。

  • 部分の美しさを越えて、全体の機能性と一貫性をつくる。
  • 施策や職種の分断を超えて、事業の推進力になる。

これからの時代、求められるのは「全体最適を武器にできるデザイナー」です。


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