「『一発OK』はデザイナーの敵か味方か?」 ─ プロ視点で語る“成果と納得”のズレ

デザイン
Atop lilac, my hand showcases black nails and the "okay" sign, a gesture concept exuding agreement. An expressive view from the first person, designed for text or advertisements

第1章:「一発OK」は本当に嬉しいのか?

デザイナーとして長年やってきて、「一発OKでした!すごい!」と言われることが何度もあった。
クライアントがその場で「完璧です!」と太鼓判を押してくれるのは、外から見れば誇らしい瞬間かもしれない。
でも、正直に言っていいですか。

「ほんまに、これでええん?」って思うこと、結構ある。

一発で通ったということは、もちろん「相手の期待値を上回った」という見方もできる。
ただし、裏を返すと「本当にちゃんと見てくれたのか?」「深く検討されたのか?」という不安も、同時に頭をよぎる。

もちろん、何度も修正されるよりはラクなのかもしれない。
でもウチらデザイナーは、単なる“ラク”を目指して仕事しとるわけじゃない。

ウチはいつも「納得」できるかどうかを大事にしてる。
クライアントのためにベストを尽くしたいし、できれば一緒に成長していきたいと思ってる。
そのためには「成果」と「納得」のズレを、ちゃんと見つめ直す必要がある。


第2章:なぜ「一発OK」が起きるのか?

では、なぜ「一発OK」という現象が起きるのか。

これは一概に“良いこと”でも“悪いこと”でもなく、さまざまな要因が絡んでいる。

1. クライアントの判断基準が曖昧

特に非デザイナーの方にありがちなのが、
「何が良いか分からないけど、なんか良さそうだからOK」
という“感覚的な判断”でOKを出すパターン。

これは決して悪気があるわけじゃない。
でも、ウチらデザイナーとしては「なぜ良いと思ったのか」を共有してもらえると、次回以降の精度も上がる。

2. デザイナーの提案力が高すぎた(=ギャップが生まれにくい)

これは褒め言葉として受け取るべきなんやけど、
経験豊富なデザイナーであれば、ヒアリングの時点で「相手の理想」や「コンセプトの本質」を見抜くことができる。
そうすると、初回からズレの少ないアウトプットが生まれる。

これ、ウチもよく言われる。「え、もうこんなにイメージ通りに?」って。
そりゃあ20年以上やっとるからな、読みも早い。

でも、それでも「もうちょい掘り下げたかったな…」って時もあるんよ。

3. “忙しさ”による確認不足

これはちょっと危険なパターン。

クライアントが忙しすぎて、「見た目が整ってるからOK」と確認をスキップしてしまう。
そうなると、「本当にこのコンセプトでいいのか?」「社内で共有されたか?」みたいな深堀りができていないまま、プロジェクトが進行してしまう。

結果、「やっぱり別案がよかったかも」と後から言われて手戻りが起きたり、
デザインは通ったのに、実際に運用してみたらうまく機能しないというケースもある。


第3章:「OK」と「納得」は違う

ウチがよく言うのは、

OKが出た=合格
納得がある=信頼

この違いは大きい。

■ OK=形式的な承認

たとえば、企画会議で「この方向で行きましょう」と承認される。
これって、“通った”という事実であって、“みんなが本気で腹落ちしてる”とは限らんのよ。

しかも、「OK出した人」って、意外と忘れてたりするんよね(笑)
「いや、言うたやん!OKって!」って思うんやけど、現場では「いやいや、それは仮のOKだった」みたいな話にすり替えられることもある。

■ 納得=本音ベースでの合意

一方で、「納得」があるときは違う。

・なぜこのデザインになったのか
・どういう意図で配置や配色がされてるのか
・この構成がどう成果に結びつくのか

こうした部分まで共有されてて、「なるほど!それは納得です!」とクライアントが言ってくれると、信頼関係がグッと深くなる。

これはもう、“OK”じゃなくて、“共犯関係”に近い。
「一緒にこの世界を作ろうぜ」っていう、心地よい共鳴やねん。


第4章:「一発OK」の裏にある“見えない努力”

一発でOKが出た時、表面だけ見れば「すごい!」「センスあるね!」って言ってもらえることもあります。でも実際は、その「一発」の裏には、何十、何百というトライアンドエラーが詰まってることがほとんどです。

デザインって、何もないところから「選ばれる案」を生み出す作業なんですよ。しかもそれが、ただ“好まれる”だけじゃなくて、“目的に沿って機能する”ものでなければいけない。

それを可能にするためには、ヒアリングで得た情報を整理し、ビジネス的な要請を理解し、誰に向けて、何をどう届けるかっていう設計思考が不可欠。

つまり──

「一発OK」は、ただの“当たり”じゃなく、“意図して当てにいった精度”の結果。

これがわからんまま「一発で通った=簡単だった」と思われると、ウチらは報われんのよ…。

しかもこの“見えない努力”って、言語化されにくい。クライアントさんにも伝えにくいし、評価にもなりにくい。だから、自分でちゃんと可視化していく姿勢が必要になるんです。

第5章:「一発OK」の“怖さ”と向き合う

ここでちょっと、プロの現場でよくある“あるある”を紹介します。

「うん、これで行きましょう!」

この一言、ウチらにとっては
「…マジか?ちょっとは迷って?選んで?」ってなるやつ(笑)

なぜかというと、

「一発OK」が出た時って、まだ“比較対象”がない状態なことが多いから。

つまり、「よくわからんけど、今見たやつが良さそう」って判断で通ってしまうと、後から「やっぱり違う気がしてきて…」ってなるリスクが高いんです。

特に、ビジュアルの好みや感覚だけで判断する場合は、この“揺り戻し”が起こりやすい。
だからウチは提案する時、なるべく比較案を用意したり、「意図」や「戦略背景」を丁寧に添えるようにしとる。

一発でOKもらえるのはありがたい。けど、それを「深く納得して選ばれたOK」に昇華させるには、プロ側の設計と説明責任がめちゃくちゃ大事なんよ。


第6章:「一発OK」が意味する“結果の質”と“プロセスの価値

「一発OK」──その言葉だけを見ると、何かすごく“デキる感”がありますよね。
けど、現場で長年デザインの仕事をしてきた身からすると、「一発OK」は必ずしも“成果が素晴らしかった証”とは限らないと感じています。

僕らデザイナーの仕事って、「美しいものをつくる」だけじゃない。
その背景にある意図や、戦略、文脈をきちんと読み取って、それを“デザインという形”に落とし込むこと。

でも「一発OK」って、時に「深掘りされなかった」ことの裏返しでもあります。
・ちゃんと意見を言わないままなんとなく通ってしまった
・そもそも熱量が高くなかった
・フィードバックの力が弱かった

こういうパターン、案外あるんですよね。
「一発OKやったらええやん!」って思うかもですが、ウチらは「クライアントと一緒により良い形を模索するプロセス」そのものに価値を感じとる。
だから、「OKの理由が語られない一発OK」って、むしろ怖かったりするんです。


第7章:一発OKより“納得のOK”を目指す

僕はいつもクライアントにこう伝えます。

「修正は遠慮せず言ってください。遠慮せずに“違和感”を出してもらえる方が、最終的に良い形になりますから」と。

これは、僕自身が“納得してもらえてないOK”に何度も直面してきたからです。

「OK」と言われたけど、後から別の人の鶴の一声でひっくり返されるとか、
実は「不満だったけど、言いづらくてOKにした」ってことが後から分かるとか、ほんまようある。

ウチらが目指してるのは「気持ちよくGOできるOK」。
それは“何も考えずに通ったOK”やなくて、“対話して、確認して、腹落ちして出したOK”やと思ってます。


第8章:デザイナーの「心の成果」を可視化する

デザインって、どうしても“目に見えるもの”の成果がフォーカスされがちです。
ビジュアルとしての完成度、納品物としての整合性──もちろん大事です。

でも、ウチが思うホンマの“プロの仕事”って、
「クライアントの不安が取り除かれているか?」
「チームの方向性が一致しているか?」
「意思決定に迷いがないか?」
っていう、“心の整い”にもちゃんと踏み込むことやと思うんです。

「一発OK」は、時にそこをスキップしてしまう。
だからウチは、「一発OKすごいっすね!」って言われた時も、
「いえ、むしろちょっと怖かったです」と返すこともある(笑)
そこには、“ちゃんと対話できたか?”という視点が抜け落ちてるから。


終章:「一発OK」はゴールじゃない

誤解しないでほしいのは、「一発OKが悪い」と言いたいわけではないんです。

実際、すべてがスムーズに噛み合った瞬間って、たまに起きます。
それは奇跡的な“共鳴”であり、全てが整った証拠かもしれません。

でも、それは「ゴール」じゃない。
むしろ「スタート地点」であり、そこから広がる成果や信頼の土台になる。

だからこそ僕は、クライアントと一緒に“納得感のあるデザイン”を目指して、これからも丁寧に向き合っていきたいと思っています。


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